常に冷静で、取り乱した所を見た事がない。
でも微笑みを絶やさなくて、同じ年なのに「落ち着いたお姉さん」な印象が、今までは何気なく視界に入る程度だった。
こういうタイプの人、勉強も出来てなんでもソツなくこなせそうで・・・どこの集団にも一人は居そうって、そんな存在だった。
真っ赤な
「”Sir,we can't use the gun,"said the
gunner to the General."There's...」
静かな今日質に響くさんの声。
映画で見るような完璧な発音では無いけど、同じ年代にしては滑らかな英語が授業中の教室に響く。
いいなぁ、あんな風に今から話せるって事は、英語がペラペラになるのも時間の問題って感じ、するよなぁ。
なんか、ちょっと別世界に人間みたいな気さえしてくる。
ヤバイ・・・ちょっと眠くなってきたかも。
なんだか彼女の声はやけに心地が良くて、その授業は結局睡魔と闘うハメになった。
「河村君、落ちたよ?」
「え?」
呼ばれて振り返った先に居たのはさん。
彼女の差し出された手元を見れば、そこにはさっき技術の授業で使ったネジの入ったビニール袋が置かれていた。
「あ、ごめん。ありがとう」
「技術、何作ってるの?」
なんか、姉妹がいないせいか・・・特にちょっとお姉さんっぽい人には気後れしてしまう傾向が俺にはある。
今も、同じ年のはずなのにさんの手から袋を受け取るだけでも・・・ちょっと緊張してしまって、なるべく手に触れないように、とか思っていた。
「イスだよ。言われた寸法で切ったりしてるハズなのに、両足の長さが違ってて座るとガタガタ言っちゃうんだよね」
「そうなの?河村君、器用な感じするのになぁ」
「寿司握るのとは別みたいだよ。あ、これありがとうね。・・・女子は家庭科、何やってるの?」
本当に何気なく聞いたんだよね。他意もなく。
なのに、無意識の内に想像してたのと違う反応が返ってきてしまって・・・。
「え、あ、あの・・・来週、調理実習なんだ。お菓子作るらしいんだけど・・・」
見るからにアタフタしてて・・・アレ?さんってこんな慌てる事あるんだ?って思った。
慌てたり、驚いたりしない人間なんていないのに、なんでか俺は、<こんなに落ち着いてるんだから>っていう考えをしていたらしい。
「そうなんだ?お互い頑張ろうね」
あまり突っ込まないほうがいいのかと思って・・・俺は、それ以上は聞かない事にした。
女の子だって、きっと色々あるよね?
・・・でも・・・意外なさんの一面を見てしまってから、俺は彼女がなんとなく気になってしまうようになった。
他の友達と話してても、あんな風になる事があるんだろうか?
他の友達の前で、もっと違う一面を出したりする事があるんだろうか・・・?
「さん」
「え、あ、河村君?どうしたの?」
滅多に話す事がない僕ら。
どちらかが意図的に話しかけないと、普段接点が全く無い事につい最近気が付いた。
そんな関係だから、今も俺が話しかけた事でさんは一瞬、誰が話しかけてきたんだろう?っていう感じになった。
ネジを拾ってもらってから、一週間。あれから、全然話してなかったから。
そう、丁度一週間。
今日は、昼前から家庭科室から甘い、いい匂いがしてきていた。
「調理実習、どうだった?」
「え・・・えーと」
いつもの彼女と違う、歯切れの悪い反応。なんだか目も泳いでいる。
この話題で前回も、位置のさんの新しい一面を知ったんだ。また見たいからって・・・俺って案外イヂワルな性格してたのかなぁ・・・。
「あ、ー」
「ちゃん」
俺達の後ろから小走りで近寄ってきた子は、同じクラスでさんの友達のちゃんだった。
そのちゃんは、光の反射で不思議な色を放つ包装紙に包まれた何かをさんに渡した。
「、これ忘れ物。いくら出来悪かったからって置いていったら可哀相だよ」
「ちょ、ちゃん!!」
言うだけ言って先に行く、とそのまままた走り去って行ったちゃん。
「・・・失敗したの?」
なるべく優しく問いかけながらさんを振り返れば。
「いや、失敗というか・・・料理苦手で・・・」
顔中真っ赤になりながら、そう告げられた。
そんな姿は、思い描いた事もない位新鮮で、かわいくて・・・!!
「じゃ、じゃぁね、河村君!」
焦るように、顔を真っ赤にしたまま逃げ出したさん。
その後には、つられてかなんなのか、同じく顔を真っ赤にした俺だけが残っていた。
作ったの、どうするんだろう・・・欲しいって言えばよかったかな?
・・・なんて、言える勇気も無いくせにちょっと後悔してしまった。
終わる。
20100329:気持ち校正