夕立
「あれ?河村君今帰り?」
めずらしくなんの予定もない土曜の午後。
明日は終業式で夏休みの始まりだってのに、友達は部活やら塾やらで誰も私とは遊んでくれないらしい。
ま、たまにはこんな土曜もいっか、とか思いつつ自分の愛車(自転車)を引きながら校門に差し掛かった所だった。
バッタリ会った、隣のクラスの河村隆君。
去年は同じクラスだったから今でも顔を合わせれば挨拶するし、話もする。河村君って、優しくて、さりげなく気が付くんだよね。
「あ、さん。うん、今日は部活無いんだ、めずらしく。」
そう言いながら、優しく微笑む。
校門を出たら、自転車に乗ろうと思ってたけど。
あ、ねぇねぇ。と言いながら小走りで自転車ごと河村君に近寄る。
「途中まで同じ方向だよね?一緒に帰ろうよ」
いいよ、と笑う河村君は、やっぱりいつもの優しそうな笑顔。
お互い<めずらしく>空いてて良かったなぁ、なんてほんわか思ってしまう。
「あれ?雨?」
別れる道まであと半分位ってとこまできて、いきなり私の鼻の頭に落ちてきた雫。
話に夢中になっていて気づかなかったけど、空を見上げてみると真っ暗になっていた。
「あちゃー・・・こりゃ夕立、くるかな?」
河村君を見上げると、さっきまでの笑顔とは一転、空を同じ曇り顔で空を見上げていた。
そして、そうこう言っている内に少しずつ強くなる雨。
「さん、自転車だし強くならない内に先帰った方がいいよ」
心配そうな顔を私に向けて、そう告げる。
私が自転車でダッシュして、河村君は走って?
「うーん・・・そうだよねぇ」
なんだか河村君を置いて一人だけ帰るっていうのが、申し訳ない気がして・・・。
雨は段々強く、大粒になってるのはわかってるんだけど。
と、そう思った次の瞬間だった。
ドッシャァッ・・・・・・
「うわっ」
「ぎゃー!!」
いきなりの大降り。
今までとは比べ物にならない降りに、バケツをひっくり返したようなって、この事だよっ!とか思いながら屋根のある場所を探すけど、
残念ながらこの辺りにはお店とかは無くて。
「さんっ」
「え?な、なに?」
いきなり呼ばれて振り向くと、なぜかTシャツ姿になってる河村君が居て。
「ずっと下にTシャツ着てたから、そんな汚くないと思うから・・・」
そう言いながら、私の濡れて少し透けたワイシャツの肩の上に、自分のワイシャツをかけてくる。
「あんま女の子は冷やしちゃいけないって聞いたから・・・。」
照れながら、今度は私の手から自転車のハンドルを優しく奪う。
「後ろ、乗って。さんの家まで大急ぎで送っちゃうよ」
「う、うん」
河村君の言葉に焦りながら、自分の自転車の後輪上に跨いで乗る。
私が乗り込むと同時に動き出す自転車。
私は、自分の肩にかかってる河村君のワイシャツを飛ばないように握り締めるしか出来ない程パニクっていた。
「雨で滑らないように気をつけながら、スピード出すから。しっかり掴まっててね」
「う、うん」
言われた通りに、ワイシャツに気をつけながら河村君の肩を前かがみになって握り締める・・・と、フワッと香る、河村君の匂い。
そして、河村君の背中はすごく安心出来て・・・、予想外に大きくて。
・・・ヤバイ。
目の前に広がる河村君の雨に濡れた茶色い髪と、広い背中。
そしてその背中と自分に掛けられたワイシャツから香る、河村君の匂い。
なんだか胸が、ざわざわする。
「さん、そこの角って曲がるんだっけ?」
「へっ?!あ、うん。スーパーがある近くだから」
「わかった」
カーブでは私を気遣いながら速度を落としたり、なんだか気づけばドシャ降りの雨は相変わらずなのに、全然気にならなくなっていた。
まだ乗ってたいなー・・・なんて思ってみても、そういう訳にも行かず、無情にも家は見えてきて。
そして、皮肉にも弱くなって止みつつある雨・・・。ホント、通り雨だったんだなぁ・・・。
「そこの家なんだ。河村君ありがとね」
「あ、うん」
ゆっくりスピードが落ちて、止まる。
私はそろそろと降りると、河村君に向き直った。
「本当ありがと!シャツ、洗って返すから」
「え、あ、大丈夫だよ。俺が勝手に貸したんだし」
「いや、ちゃんと洗って返したいから!」
遠慮する河村君に、負けじと私は腕を突っぱねた。
お礼、したいし・・・何よりこれで終わりっていうのが、なんだかどうしても嫌で・・・。
そして、河村君はニコッと笑って、頭を掻きながら言った。
「うん、じゃあお願いしちゃおうかな。返って迷惑かけちゃったみたいで・・・ごめんね」
「いや、そんな事無いよ!こちらこそ、ありがとう!!」
そして、河村君は爽やかに「じゃぁ、また学校でね」と言って歩いて帰って行った。
雨なんて嫌いって思ってたけど・・・。
そんな風に思いながら、私は肩に羽織ったままの河村君のワイシャツを握り締めて帰って行く後ろ姿を眺めていた。
オワリ
20100329:ちょこっと校正