よしっ!
下に下って下って下って・・・。辿り着いたそこは、1F奥にある美術室だった。
「お邪魔しま〜す・・・」
そうっとドアを開けると、むせ返るような油絵の具の匂い。
なんで、美術室っていつもどこの校舎でもこういう匂いがするんだろう・・・?
中は歴代の先輩の誰かが描いたんだろう、油絵や優しい色合いのパステル画なんかが置いてあった。
色々なのがあって、結構見応えあるかも・・・。
「先輩???」
「ん???」
いきなり呼ばれた割には大して驚きもせず・・・私は、呼ばれた声のする方、入ってきた入り口を見た。
そこにいたのは、2年レギュラー桃城武。
「を、桃〜!」
「ゲーム中なのに、なにくつろいでんスか・・・」
ちょっと呆れた風に、柔らかく桃は笑ってそのまま私の隣に立つ。
「なんで美術室ってどこも同じ匂いがするんだろうね〜」
「・・・会話繋がってねーし・・・」
ガックリ項垂れる桃を横目で見やって、なんだかゲーム中だっていう緊張感も無くなってきてしまった。
桃は、軽い印象をうけるけど実はそんな奴じゃなくて・・・本当は誠実で、純粋。
きっと、クラスでも人気者なんだろうなぁ、楽しそうでいいなぁ、なんてついつい思ってしまう。
なんだか、すごく賑やかで、でも皆楽しそうなクラスの様子を想像する。
だって、絶対桃が居るクラスは、桃が居るだけで盛り上がるだろうから。
ちょっとそんな考えが頭を巡っていた、その時。
バタバタバタ・・・
「おい、いたかー?」
「いねー!」
を、警察仲間だな!?よしよし、マジメにゲームを楽しんでるようじゃのぅ・・・。
まぁ、私も警察だから捜しに出ないといけないんだけど。
「桃」
「なんっすか???」
フと思い立って、桃のジャージの裾を掴んだ。
「・・・・・・・なんっすか、この手は?」
「私、警察。アナタ、泥棒。捕マエル。」
わざとゆっくり、外人風に。
「・・・祖国に家族が居るんです。お願いですから見逃して下さいませんか?」
「駄目だ!おとなしく観念しろっ!!」
「お願いします〜〜〜〜」
「さ、署までご同行願おうか」
なんだかセリフだけ見ると男女逆転してるような・・・。
とりあえず、私は桃の裾を離さずにそのまま美術室を出ようとした。
ウフフ・・・レギュラー捕獲の夢を早速叶えてしまったわい。
「・・・なぁ、先輩」
「なんだい、逃がせって話だったら却下だぞ」
「いや、先輩に捕まるんだったらむしろ本望かな」
・・・ん?
今、日本語おかしくなかったかい???
私は掴んだ手をそのままに、美術室の扉を開ける寸前という所で桃に向けて体を反転させた。
「本望?」
「そ、本望。」
・・・まぁ、いいか・・・?
「そ、そう」
とりあえず流しておこうと決めた。だって、なんか嫌な予感がしたから。
なんだか知らないけど、なんか嫌な予感。さっさと行ってしまおう、うん。それがよい。
そう心に決めて、私は再びドアに手をかける・・・んが、その手を遮る何か。
「も、モモシロ君。」
「ん?」
「この手は何かな?この、私のドアノブを掴んでいる手を掴んでいる手は?」
「なげーなオイ」
「い、いやいやいや・・・連行させない気?!」
嫌な予感嫌な予感!!なんだか心拍数上がってるし!!
どうしよう・・・け、警察なのに逃げちゃってもいいかなぁ・・・?
むしろ逃げる気満々で、私はさっきより少しだけ足に力を込めた。
「先輩ってさぁ、なんでそうかな・・・?」
「は、はい?」
「普通こういう状況って察するっしょ。」
「ワタシ日本語ワカリマセェ〜ン」
桃は、ちょっと小さなため息をついた。
ごめん、でも私こういう雰囲気って苦手・・・!!
「俺、先輩が好きなんスけど?」
・・・言っちゃったよー・・・あ、この場合って言われちゃったよー、か?
どっちにしろ、私にとっていきなりの桃の告白だった。
だって、桃は気の合う、ノリのいい後輩で・・・。
「冗談・・・」
「じゃないっスよ。なんでこんな冗談、こんな二人っきりの時に言わないといけないんスか」
ですよねー・・・。
「嫌、なんスか?俺に告られんの。」
「嫌とかじゃなくって・・・いや、嬉しいよ?嬉しいんだけど・・・」
「だけど?後輩としか思えない、とか?」
そうだって、桃は気の合う、ノリのいい後輩だって、言おうと思った。言おうと思ったんだ。
でもさ。
私の手首をまだ掴んでる桃の手が、強気そうな言葉とは裏腹に、少し震えてるのがわかってしまった。
桃、緊張してるんだ・・・試合でもあんま緊張したりしないのに・・・
そう思ったら、なんだか。
とても虫のいい話なんじゃないかって自分でも思ったんだけどさ、桃の事、かわいい、なんて思えてきて・・・。
ちょっと・・・キュンって、しちゃった。
そしたら。
「いや、こういう雰囲気が苦手なだけ」
なんだか、桃にOKの返事の代わりになるような事言ってしまっていた。
まぁ、いいか。だって桃、なんだかかわいーんだもん。
そんな始まりだって、いいよね?
「俺と付き合ってもらえないっすか?」
「・・・いいよ。その代わりこのまま捕まってくれる?」
「さんに捕まるんだったら、いくらでも」
桃ED END