「杏ちゃん・・・」
「お疲れ・・・負けちゃったね」
「うん」

杏ちゃんが隣に腰を下ろして来たのを気配で感じた。
私は・・・自分で思ってたより海堂のあの態度がショックだったらしく、顔を上げる気になれない。
海堂、私なんかした・・・?そんな考えばかりが頭の中を回っている。

「ねぇ、ちゃん?」
「ん・・・?」
「テニス部のチラシ見たんだけど、相手に勝てると・・・」
「あぁ、うん・・・実はさ、海堂と放課後一緒に帰ってみたかったんだよねー」

自然と口をつく私の思い。桃しか知らなかった、私の・・・。
なんでだろう、桃じゃなくて、女の子に聞いて欲しかった。

「好きなんだ?」

落ち着いた杏ちゃんの声。

「・・・本当は・・・桃に少し惹かれてた所もあったんだ。でもね、海堂がやっぱり好き。」
「・・・言わないの?」
「嫌われてるみたいなんだ、私。さっきも試合中に、<くだらない>って言われちゃって・・・試合に負けたとか
そういう事よりも、その一言が辛かったよ」

私の隣の空気が、スッと動いた気配。
私は、やっとそこで顔を上げた。

「そっか・・・」
「うん・・・」

杏ちゃん、もう行っちゃうのかなぁ?
立ち上がって、どこか一点を見据えてる杏ちゃんは凛々しい。







「だってさー!海堂クン!!」






いきなり杏ちゃんが・・・コワレタ?

「な・・・どうしたの?」

私の問いかけに杏ちゃんは答えず、ある一点を未だ見つめている。
・・・私が曲がってきた、テニスコートに通じる曲がり角の辺りを。

「海堂クン!!」

もう一度、杏ちゃんは叫んだ。
すると、曲がり角から人が・・・海堂が、出てきた。

「か、海堂・・・」
「・・・・・・」

なんで海堂がこんな所にっ!?
パニクった頭に、ポンっと手が置かれ振り返ると杏ちゃんが笑顔で笑っていた。

「ま、頑張って!ちゃんなら大丈夫だよ!」
「あ、杏ちゃん・・・?」

そう言って小走りに私を置いて行く杏ちゃんを目で追うと、自然と海堂と目が合ってしまった。
さっきは合っても何も無かったかのように逸らされた視線が、今度は私を捕らえて離さない。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

ち、沈黙が重い・・・。
海堂、今の・・・聞いてたんだよね、杏ちゃんがあぁ言ったって事は・・・。

「・・・どこから聞いてましたか?」
「最初」










ゲフン










「お前」
「はい・・・」

目は逸らせないまま、硬直状態。
私は、海堂がしゃべりかけた続きが出てくるのを待っていて・・・










待っていて・・・









待って・・・










「って、まだかよっ!!」

気付いたらツッコんでるしー・・・

「チッ」

・・・今この人<チッ>って言いましたよ・・・。

「桃城と付き合ってんじゃねーのかよ・・・」
「は?・・・私が?」

ついつい私が聞き返してしまうと、海堂は私の問いに言葉では答えずに
目で<殺す>位の勢いで睨んできている。

「付き合った憶えはないで・・す・・・」

好きな人にひたすらガン付けられるなんて、すんごい貴重な経験よね、多分・・・。

「じゃあ・・・」
「ハイ・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・?」
「・・・・・・」

海堂、また会話ストップなの?・・・まぁいつもよりは話してる方だけどさ。
いいよ、海堂の性格は分かってるつもりだし、なにか言いたい事あるなら待ってるよ。
その時、海堂の視線が少しだけ揺らいだ・・・。

「・・・言えよ」
「・・・え?」
「言いたい事あるんなら、ハッキリ言え」










それはこっちの台詞じゃー!!!!!










さっきの試合までの海堂の態度を思い出して、ちょっとムカツキつつ・・・
でも、怒っちゃ駄目だと自分をたしなめて・・・。

「海堂が好き」
「・・・で?」





・・・結構勇気出して言ったのに・・・。
<で?>って・・・OKなのか振られたのかすらわからないよ、そんな返事じゃ・・・。

「・・・付き合って下さい」
「・・・おう」

なんで私、こんなに憮然としながら告って・・んの・・・って、アレ?

<付き合って下さい>
<・・・おう>














OKって事っすか!?

「私・・・で、いいの?」
「・・・ケーキが美味かったからな」
「あ・・・そう・・・って、餌付け!?」

私が好きとか、そういうんじゃないのか・・・い、いや、贅沢は言えないよな、なんか付き合えるらしいんだし・・・。
悲しそうな顔をしていたのか、はたまた不安そうな顔をしていたのか。
海堂は私に背を向けた。

「コートに戻る」
「あ、うん・・・」
「・・・」
「が、頑張ってね」
「・・・・・・・・・・・・チッ・・・、お前の事はここんとこずっと気になってた。・・・だから、そんな顔すんじゃねぇ」

言うだけ言って去って行く背中。
・・・素直じゃないね、海堂。





とりあえず、今日は一緒に帰りたいと思った。
待ってても、迷惑じゃないかな?・・・って、ワォッ!!試合に負けたのに放課後デート出来るんだってさ!
内緒で海堂を待っててみよう、もしかしたら新しい反応が見られるかもしれない。
・・・そして、帰りに海堂の不機嫌だった理由を聞こう。




終わり