「桃・・・どした?」
少し驚き気味に聞いた私に、桃は小さくため息をついた。
「どしたじゃねーよ。心配してたんだっつーの」
お前帰ってこねーしよ、と呟くように付け足した桃は、口調は軽くても笑ってはいなかった。
「ご、ごめ・・・」
「大丈夫か?」
「・・・うん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「さぁ」
「ん?」
珍しく名前を呼ばれた。
桃は所在なさげに頭に手をやったり、地面を蹴ったりしていて、なんか落ちつかない感じ・・・って、
桃に落ち着きがないのはいつもか。
「そんなにマムシが好きなんかよ?」
落ち着きが無いと思ったらその話ですか。
「好きか憧れかって言われたら正直わかんない・・・かなぁ。ただ・・・」
「ただ?」
「友達として、でもシカトされたり<くだらない>って言われたのはショックだった。それだけは、ハッキリ言える。」
桃は私の答えを聞いて、少し視線をはずしてまた頭を軽く掻いた。
「あー・・・まぁ、そりゃあなぁ。でもマムシってそういう所普段からあんだろ」
犬猿の仲のハズなのになんでこの人フォロー入れてんだろ?
相変わらずお人好しなんだなぁ、そういう所。
「それ位わかってるよ。でも、そういうのとは違った・・・まるで話した事も無い人に対するような・・・
そこに何も見えてないみたいな素振りだったんだよ」
段々話しながら、もしかしたら今私が桃に伝えようとしてる事って、味わった本人しかわからないような・・・いくら伝えようとしても
聞く人によっては「被害妄想」で終わっちゃうような話なんじゃないかって、怖くなってきた。
きっとイジメにあってる時に周りに対して説明する時ってこんな気分なのかなって思った。
桃は、前向きに物を考える人だから・・・もしかしたら、<気のせいなんじゃねーの?気にすんなって!!>って
言われてしまうかもしれない。
そんなの、嫌だ。
そんなの、嫌だ。今まで桃は、さりげなく、私の気持ちがわかってるかのように私が欲しかったり私の負担を取り除くような
すごく優しいフォローをしてくれていた。
そんな事に今気付いた。
胸が熱くなる・・・こんなに私の事わかってくれてる人いないって思う。
でも・・・だからこそ、今欲しいのは<気にすんな>って言葉じゃなかった。そんな言葉なら要らない。
私が欲しいのは・・・誰でも言える言葉じゃなくて、叱咤でもいいから桃だけの、桃なりの言葉。
「正直俺はじゃないしその状況を見てないから、お前のショックのでかさがわかんねー・・・でも・・・」
「・・・・・・」
「がマムシの事でショック受けてんのが、俺は悔しくてしょうがねー・・・」
「・・・どういう事?」
桃は頭を上げて、私の事をしっかりと見た。
真摯な瞳・・・嘘は無い、桃はきっと思ったままを言葉にするんだ。そう、思える。
「試合前に言った事は、本気だって事。」
<俺がもらってやる>
「・・・こんなん欲しいの・・・?」
「欲しくてしょうがねーよ・・・なんせ一年ン時からの片思いだからな」
桃の耳が赤い。
そんなの、初耳だよ・・・?私が「海堂海堂」言ってる時・・・笑って馬鹿じゃねーのって言ってたじゃんか。
びっくりして口を開けないでいると、桃が私の手を優しく握った。
「俺と付き合ってくんねーか?」
私が欲しかった言葉では、ない。でも、これは桃の、桃だけの言葉だ。
他のどんな言葉よりも純粋で力強い、私の欲しかった言葉では無いけれど、でも、予想外に嬉しい・・・。
嬉しいけど・・・
「私、海堂の事ばっかだったんだよ?桃のそんな気持ちに気付きもしないで・・・」
確証ではないけれど、好きなのかもしれないって想いが今私の中に生まれてきていた。
とっさにさっき思った<嫌だ>っていう想い、それとここ数日で出来た以前より強い桃への信頼。
恋愛は頭でやるんじゃないってわかってるから、こんな自分に対する分析はしても意味が無いって思うけど・・・。
自分の今のこのドキドキは信じてもいいんじゃないかって思うけど・・・でも、そんなの虫がいいとも思うから。
「それは、いーんだよ。」
「よく、ないよ・・・」
「いーんだって!マムシの話してるが好きだったんだ。そこに無理に入って行くつもりはなかった・・・だから、
今までの事は気にしないでいーんだ。問題は、今がどうしたいって思ってるのかだ。」
「私・・・」
「言っておくけど、俺マムシよりイイ男だと思うゼ?の事もそこそこわかってるつもりだしな♪」
桃は、太陽みたいに笑った。
ありがとう・・・自己中でごめんね?桃にそこまで言わせてごめんね?そう口には出さないで、心の中で伝えて。
私は、桃を選ぶ。このドキドキが正解な事を祈って、ドキドキに従って。
「桃がイイ男なのはとっくに知ってるよ!いっとくけど、私結構自己中みたいよ?」
「そんなのわかってるよ」
憎まれ口を叩いてばっかでちっともロマンチックになんかならない桃に近寄って、一回頭をはたく。
「これからもテニス教えてくれるなら付き合ったげる」
遠回しにそう言った。
後日杏ちゃんとストリートで会った。
付き合う事になったって言ったら、「やっぱりね」って言われた。
・・・なんでも、私に対しての態度が他の子となんか違ったらしい・・・<気のせいだよ>って咄嗟に思っちゃったけど、でも
杏ちゃんがそう感じたんなら、きっと・・・そうなんだろうな。
終わり