鬼のカクランってやつなのか?
いつも元気に走り回っていて、気遣いもよくするマネージャーであり、俺の彼女でもある
彼女のおとなしい姿なんて想像もつかなかったが・・・結構ソソる、なんて口が裂けても言えないな。








風邪の妙薬








「今日は、各自ストレッチした後で乱打。その後でレギュラーは・・・?」

部活前、レギュラーが集められて一日のスケジュールを手塚が読み上げていた所だった。
手塚の声に俺は顔を上げて、マネージャーとして手塚の隣に立つを見る。
少し頬を染めて、虚ろな表情をしたがそこには居た。

?どうした?」

から返事が無い事に眉をしかめながら、手塚がまた聞く。
様子がおかしいな・・・。
俺が訝しげに腰を上げたと同時に・・・





は、その場に崩れ落ちた。
・・・間に合わなかった俺は、が手塚に支えられるのを見てる事しか出来なかった。

























家。

あの後、発熱してる事が発覚したは、タクシーを呼んで強制送還された。
意識が朦朧としていた事もあって、部内には付き合ってる事はとっくにばれている俺が付き添いで。

「ごめんね・・・」
「気にするな。」

家には誰もいないらしく、鍵を受け取って勝手に開ける。
タクシーから降りた気配がして振り返ると、は地面に座り込んでいた。

「・・・何してるんだ?」
「いや・・・立とうとしたんだけど・・・」
「・・・そうか」

まるで項垂れたような姿勢のの脇に手を入れて立たせようとするが、余程の熱なのかどうもフラフラする。
仕方なくというか、なんというか・・・まぁ不可抗力だよな、と心の中で自分に対してなのかに対してなのか、
はたまたどこで誰が見てるかわからないご近所さんになのか言い訳をしつつを抱き上げた。

「う、うわぁっ!!な、な、なにしてんの!!」

・・・元気じゃないか。

「・・・お姫様抱っこ。」
「いや、それはわかるからっ!!」
「ちょっと黙ってくれないか」
「・・・はい・・・」

なんだろう、なんかさっきから胃の辺りというか胸の辺りがムカムカする。
そのせいでの普段通りの騒がしさがなんだかカンに触った。
玄関を通って一番手前のの部屋に入ると、ベットに寝かせた。
・・・体温計とか持って来た方がいいんだろうが・・・どうしたもんかな・・・。

「ねぇ」
「ん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・怒ってない?」
「いや」
「嘘だ!!怒ってるじゃんー!!!!」

途端にわめき出す。
何を言い出すかと思えば、怒ってるか、なんて。怒ってるわけじゃない、なんかムカムカしてるだけなんだ。
はベットから少し身を乗り出して、俺に近づいた。

「怒ってないなら、何?」
「別に、なにも」

俺の返答はそんなに変だったのか?答えた瞬間には悲しそうな、泣きそうな表情になった。

「ねぇ、さっきから自分がどんな受け答えしてるか自覚ある?普段の態度よりなんだか冷たいんだよ?それが
怒ってないって言うんなら他の一体なんなわけ?」

言われて、考える・・・確かに、冷たい・・・か?実際の態度がカンに触った事もあるし、それが外に出ていたかもしれないな・・・。

「さっきから・・・胸の辺りがムカムカしてる。」
「・・・それを怒るって言うんだよ」

ハァーっとため息をついて、一瞬項垂れた頭を上げたは俺をまっすぐに見た。

「こんなに倒れるまで風邪を放っておいた私が、確かに悪いよ・・・ごめんね」

自分なりに原因を考えて謝ってきた彼女の言葉は、俺にとっては<当たらずとも遠からず>という感じで。
自分で自覚していなかった<怒り>はそれを聞いて漠然とそうじゃないという思いに駆られた。

「いや、違う。」
「ん?」
「それもあるが・・・違う。俺は・・・そうだな、きっと倒れたを支えたのが俺じゃなく手塚だった事に腹を立てているんだと思う」

話ながら気付き始めた思い。
そうだ、あの時確かに俺は手塚に対して嫉妬した。
そして・・・・・・。

「貞治・・・」
「あと・・・そんな状態のに気づけなかった自分が悔しい」

ムカムカの正体がわかれば、後は簡単だった。
なんの事はない、恋人として出来て当然なんだと思っていた事が出来なかった自分への悔しさ。
は、俺の告白を聞いて・・・飛びついて来た。

「おい」
「大丈夫、嬉しかったっていうか・・・そんな事考えてると思わなくて・・・」
「すまない」

俺の謝罪には抱きついたままで頭を振った。

「謝る事ないよ!!・・・ごめん、もう少しこのままでいい、かな・・・?」
「構わないが・・・」
「ちょっと・・・引っ付いてたい」

の通常より高い体温を制服ごしに感じながら・・・不謹慎だが・・・自分の自制はどこまで効くのか不安になった。
そんな俺の内心の戦いの事なんか知らないは、俺の腰辺りに廻してきた腕に力を込める。
それに答えるように、そして自分の葛藤を誤魔化すように背中を撫でてやって、の体をそっと剥がした。

「さ、少し寝ろ」
「うん」

横に寝かせてやって間もなく聞こえてきた寝息。
額に手を置いてやると俺の手の体温が気持ちいいのか、少し険しかった表情が和らいだ。
そんな些細な事が妙に嬉しくて・・・。

「好きだ」

普段滅多に言わない所か頼まれないと言わない言葉を寝顔にかけて・・・一人赤面する。
なんかいいな、こんな穏やかな空間は久しぶりだ。
の寝顔は少し熱っぽく赤みが差していて、どうやら家の人が帰ってくるまでタオルの取り替え位はして
いないとまずそうだ。

だが・・・そうだな、惚れている相手に自分だけが何かしてやれるのってなんだか心地いいな。
それに、こんな色っぽい感じはそうそう見られるモノじゃない。
俺はその日、送ったら戻るつもりでいた部活を休んだ。
の為に一緒に居る事がとても幸せな感じだったので。


終わり


19000hitお礼で菊姫さんへ☆
20100331:ちょっと改訂