+ひとりじゃない+
夏休みのある日の夕暮れ。
はひとり、海沿いの道を歩いていた。
の脳裏に浮かぶのは、クラスメートでバスケット部員の三井寿のことだった。
今年、念願叶ってバスケット部はインターハイに出場した。
残念ながら3回戦敗退だったが、優勝の大本命だった秋田の山王工業を倒すという結果以上の内容だった。
中学時代MVPに選ばれた三井は高校でも当然、バスケット部に入った。
鳴り物入りで入部した三井は噂に違わぬ才能を見せ付け、周りからの期待を一身に集めていた。
しかし、運命のいたずらか、三井は練習中に膝を傷めたことから、バスケ部を去ることとなってしまった。
突然訪れた試練。
15歳の三井の心は堪え切れなかった。
激しい絶望感が心の中を覆い尽くす。
その結果、バスケットから離れただけにとどまらず、次第に悪い仲間と付き合うようになってしまったのだ。
髪を伸ばし、いつしか不良と呼ばれていた三井。
クラスの中でも浮いた存在になった三井との関わりをできるだけ持たないでも済むように、クラスメートの態度は素っ気無かった。
だが、は三井の瞳の奥に深い悲しみの色が滲んでいることを見逃してはいなかった。
一緒に入部した仲間たちからひとりだけはみ出してしまった孤独感、疎外感。
バスケットが好きな分だけその気持ちは大きい。
三井が悪ぶっている理由になんとなく思い当たっていたはどうしても放って置くことが出来なかった。
幸いなことに1年の時から3年の今年まで、ずっとクラスは一緒。
は何かと三井の世話を焼いていた。
はじめは他人だと思えなかったからだった。
も仕事で忙しくしている両親との間に距離を感じ、寂しくて仕方なかった。
両親が忙しいことを気にしていることを知っていたは持ち前の気の強さも手伝って、決して『寂しい』と口にすることはなかった。
本当は渇望しているのに、素直に口にしないという点で、三井がバスケットに対して抱いている感情と近いものがあると感じ、連帯感のようなものが芽生えていたのだ。
接する機会が増えれば増えるほど、三井寿という人物が見えてくる。
人一倍純粋で、負けず嫌いで、やさしい人。
の目にはそう映っていた。
グレてしまったのだって、本当にバスケットが好きだったのに、その思いが届かなかったから。
心のどこかで逃げ出してしまった自分を許せないと思っている気持ちを隠すために、バスケットを遠ざけようとしているだけ。
次第にの気持ちも変化を見せる。
気づいた時にはそんな三井のことを好きになっていた。
そんな矢先、三井がバスケ部への復帰を果たした。
日を追うにつれ、三井の瞳は以前の輝きを取り戻して行った。
「三井、頑張ってるじゃん?やっぱ、三井にはその方が合ってるんじゃない?」
瞳の奥の暗い影が消えたことが嬉しくて、は思わず三井に声をかけた。
三井ももう一度バスケットができることを心から喜んでいたようで、明るい笑顔で応えてくれた。
「ああ、やっぱ、オレは本当にバスケが好きだったんだって思う。絶対に全国に行ってやるからな。もちゃんと見てろよ?」
「そこまで言うんだったら、応援してあげようかな?頑張ってよ!」
少し冗談めかして返しつつも、なんとなく、三井が遠くなってしまったように思えてならなかった。
は一抹の寂しさを心に閉じ込め、コートの中を駆け回る三井を応援していた。
そして、三井はインターハイへの出場を果たしたのだ。
『選抜に出る』と言って、まだ引退はしていない。
(三井って、本当にバスケが好きなんだなぁ…。これじゃ、私が入り込む隙なんてないも同然だよね…。)
バスケ部に復帰した三井を見て嬉しいと感じた反面、寂しいと感じたのはきっと、この気持ちのせいなんだとわかっている。
それでも、輝いている三井を見るのは好きだから、この先も三井から目が離せない、ということもわかっている。
つくづく勝手だと呆れながら、ひとりで歩いて行く。
すると、前方に見慣れた人影を見つけた。
(あれって…三井?)
目を凝らすと、そこには紛れもなく三井がいた。
どうやら練習を終えた後らしく、Tシャツにジャージ姿で、肩からバッグを下げて歩いている。
三井もすぐにに気づいたようで、右手を挙げて見せた。
「よう、何してんだ、こんなトコで。」
「ちょっと黄昏てんのよ。そういう三井は?練習の後?」
可愛い女の子なら、『三井くんのことを考えてたの。』なんて言うのかもしれないが、自分はそんなキャラじゃない、と思っているはオブラートに包んだ言い方しか出来ない。
「おう、まだオレは引退なんてしちゃいねえからな。」
いつものようにニヤリ、と笑う。
そんな何気ないやり取りにも心が和んだ。
「それなら、ヒマだよな?ちょっと付き合え。」
不意に切り出された三井の言葉に思わず鼓動が激しくなる。
「何よ、暇つぶしの相手?いいけど、私は高いよ?」
本当は嬉しいくせに、どうしても素直になれない。
しかし、三井は少しも気に留めていないようで、海岸へ下る道へと足を向けた。
少しずつ日が傾き始めている海辺は綺なオレンジ色をしていた。
「ひとりで海を見てんのもなんだからよ。」
どこか居心地悪そうにしている三井を見て、はついちょっかいをかけたくなった。
「へえ、柄にもなくロマンティストじゃん?」
どうしても茶化してしまう。
「うるせえ。」
これには三井もムッとして返す。
やばい、と思ったは何とかしてその場を取り繕おうとして、慌てて口を開いた。
「でも、なんとなくわかるよ。三井って、ホントはすごく純粋じゃん?1年の時からずっと見てたからさ、私はそう思ってた。」
「そういや、お前とはずっと同じクラスだよなぁ。これって腐れ縁って言うのか?」
「うーん、そうかもね。」
がくすっと笑って三井を見ると、三井もまた、同じように笑っていた。
「三井がグレてた時もさ…すごく寂しそうだった。あれも、三井が純粋だからじゃん?ホントはバスケがしたいって気持ちが顔に出てたし…。」
「ぐっ…。」
三井としては、痛いところを突かれたのだろう。
ばつが悪そうな顔で視線を泳がせている。
それには敢えて構わず、は言葉を続けた。
「だから…、またバスケがやれるようになって、ホント、よかったね。今の三井、光ってるもん。まあ、グレてた時でも私は三井のこと、好きだったんだけどさ。」
そこまで口にして、は慌てて両手で口を押さえた。
ちらり、と横目で三井を見ると、驚いた顔でこちらを見ているのがわかった。
(ど、どうしよう!ついポロッと!穴があったら入りたい…って言うか、逃げたい!)
だが、当然のことなら、入るべき穴も、逃げるチャンスもない。
頬が熱を帯びてくるのがわかった。
「お前…、それ、本気で言ってるのか?」
しばしの沈黙のあと、三井は驚きを隠せないままにそう言った。
動揺しているせいでは素直にこくん、と頷いた。
「まあ…オレもお前みてえなヤツは嫌いじゃないし…。」
「へっ?」
ぼそぼそと話す三井に思わず間抜けな声を上げる。
すると、三井は半ばやけになったように大きな声で言った。
「…ったく、お前みてえなヤツは嫌いじゃないから、付き合うか、っつってんだよ!」
が驚いて目をぱちぱちさせていると、三井は言葉を続けた。
「だってよ…、オレがハンパしてる時も、お前は態度を変えないでいてくれたじゃねえか。そういうとこ、すげえ嬉しかったし、気に入ってたんだよ、実は…。」
は自分の耳を疑った。
更に三井の言葉を続いた。
「だから、オレはまだひとりじゃねえんだな、って思えてよ…タバコには手を出さずに済んだんだよ。」
「そうだったんだ…。」
そういえば、不良っぷりがエスカレートしても、三井がタバコを吸っているところは見たことはなかった。
「ま、そういうことだ。ほら、帰るぞ、!」
きっと照れくさくてたまらなかったのだろう。
三井は会話を強制終了させると、踵を返して歩き始めた。
「あ、待ってよ、寿!」
名前を呼び捨ててくれたことが嬉しくて、も同じように三井の名前を呼んだ。
これからはひとりじゃない。
そう思うと、ついつい意地を張ってしまうクセも直るかも知れない。
ほんの少しだけ素直になれたはそれまでとは違う、やさしい微笑を浮かべていた。
誕生日プレゼントという名目で押しつけたゴリイラストのお礼に三井ドリを三咲ヒカルさんより頂きましたvvv
三井っ!!大好きだー!!!!!!
と読む度に叫びます。(阿呆)
・・・マジ嫁に行きたいですよ・・・ヒカルさーん、今度はプロポーズの話でよろしく(←最低)