一番高いキス













宍戸亮、15歳。
氷帝学園中等部3年、テニス部。
毎日テニスに明け暮れて、気付けばこのクリスマスの時期・・・ダブルスを組んでいる一個下の長太郎にも彼女が居るというのに、
俺はすっかり乗り遅れてしまっていた。
いや、乗り遅れたというか・・・気付いたらクリスマスも間近だったってだけなんだが。
うちのテニス部は名門で、正直女にモテる・・・周りも彼女持ちが多いから、自然とこの時期になると浮かれる奴が多い・・・ケッ、いーんだよ別に。
女に浮かれてテニスに集中出来なくなるような奴にだけはなりたくねー。
別に、クリスマスだからって女なんざいらねーよ・・・。
・・・・・・・・・・・気になってる女は別だけど、よ。

「じゃーな、宍戸」
「おう、また新学期なー」

12月25日、終業式も終わってクラスメートが次々に帰っていく。
イブに部活があったので、今日はあの榊にあるまじく部活は休みらしい。
俺は、なんとなくまっすぐ帰るのがむなし・・・いやいや、なんとなくまっすぐ帰る気になれなくて、カバンを抱えて屋上へ向かう事にした。
ちっとばっかし寒ぃけどな。でも、屋上ってなんか好きなんだよ。・・・馬鹿となんとかって言うんじゃねーぞ?

「あ、宍戸さん?」

呼ばれて振り返ると、長太郎が居た。

「おう。」
「帰るんですか???」
「帰る。・・・前にちょっと屋上行くけどな」
「・・・寒いッスよ?」
「知ってるよ。寒いけど好きなんだよ。お前デートなんだろ?」
「あ、ええ・・・エヘヘ」

なんか照れくさそうに笑う長太郎がなんかムカツイタ・・・。
くそっ・・・こうしてやるっっ!!

「あーだだだだだ!!宍戸さん!?何すんですか!!」
「何って、こめかみグリグリ。」
「ひどい・・・ひがんで・・・あーだだだだだだだだ!!!!」
「ひがむか!ボケッ!!じゃーな、明後日部活でな!!」
「は、はい・・・」

何やら俺がひがむとかなんとか変な誤解をしだした長太郎を尻目に、俺は階段をさっさと上がって行く。
ひがむかよ・・・別に女なら誰だっていい訳じゃねーんだよ・・・。

「よぉ、宍戸じゃねーか。どこ行くんだよ?クリスマス目の前に愛の告白か?」
「うるせー馬鹿大将」

・・・どうしてこう、今日に限って行く先々邪魔が入るんだ・・・。
今目の前に表れたのは、言わずと知れたうちのテニス部の馬鹿大将、跡部景吾。

「ったく、お前も本当減らず口だよなぁ・・・そんな事ばっか言ってっから女の一人も出来ねーんだよ」
「うるせーな・・・さっさと帰れよ」
「あ、あぁ悪い、女っていうか、だっけか?」
「・・・・っ!!お前マジさっさと帰れ!!」

いつまでも人の前でニヤニヤ笑っている跡部を尻目に、急いで階段を屋上に向かって駆け上がる。
くそっ・・・やっぱ跡部なんかに話すんじゃなかった・・・!!
全国大会後の打ち上げで少し隠れて飲んだ酒の力もあって、ついつい口走ってしまった気になっているの事・・・。
クリスマスだからって女なら誰でもいいって訳じゃない・・・。


屋上は、思ってたより寒くなくて風もあまり吹いていなかった。
そういえば、今年は暖冬だとか言ってたっけか・・・?とか考えていた時、耳に優しい呟きが聞こえた。

「よっ」
「・・・・・・なんでこんなところにいんだよ」

ことごとく行く先々で誰かに会う日だと思った。
廊下では長太郎、階段では馬鹿跡部、次は・・・

「別にいーじゃん、どこに居たってさ」
「まぁ、そうなんだけどうお・・・。なにしてんの?」
「見てわかんない?マフラー編んでんの」

言われて初めて手元を見てみれば、なるほど確かに編み物の最中だった。
クリスマス当日に編み物・・・?

「自分の・・・?」
「何が悲しくて自分のマフラー編まないといけないのよ!!」
「告るんか?それとも彼氏?」
「・・・告るの」
「ふーん」

・・・まぁそうだよな・・・ってか、普通にショックだな・・・。
そうかー・・・好きな奴居たのかー・・・。
なんでもないフリしながらとは離れた場所に座る。

「・・・なに?この距離?」
「いや、邪魔しちゃ悪いと思って。」
「もう終わるし、せっかくだから話し相手になってよ」

・・・失恋気分に浸れる時間が出来るのはまだ先なのか・・・?
あんま話したく無いのが本当だけど、話せるならそれはそれで嬉しい・・・複雑な恋心。
お許しが出るなら、と言われるままにの隣に移動してやる。

「・・・勝算は?」
「五分五分、かな。」
「いけんじゃん?」
「じゃぁ、七分位にしとこう。」

そんなにあんのかよ。
会話をしつつの手元は一定のリズムで毛糸を編み上げていく。
色は、濃いブルー。

「宍戸、今日部活は?」
「ない」
「ないのっ!?」

リズムが途切れてこっちを凝視した・・・。
なんだよ。

「テニス部の奴なの?」
「・・・うん」
「ご愁傷様」

なんだよ、テニス部かよ。
誰だっつーの、コンチクショウ・・・。

「・・・まぁ、大丈夫でしょう・・・もう終わるし。」

なんの根拠があるのかまたの手元は一定のリズムを刻みだした。
そして流れるしばしの沈黙。

「ねぇ、宍戸はフリンジ有りと無し、どっちが好き?」
「・・・フリンジってなに?」
「・・・マフラーの先にあるフサフサ。」
「・・・・・・無い方が好き、かな。でも俺の好みに合わせなくても・・・」
「まぁまぁまぁ」

意見が聞きたかったんだろうけど、今、俺に聞かなくてもいーじゃんかなぁ・・・。
また沈黙が流れて、俺は空を仰ぎ見た。
風は多少あるけど、雲ひとつ無い快晴・・・今はそれもなんだか恨めしい。

「よし!!終わったー!!」
「おう、お疲れさん・・・」

終わったんなら、俺もお役ごめんだし帰るかなーと思った時だった。
いきなり首元に降りてきた、暖かな感触・・・それは、さっきまでが編んでたマフラーで。
何事かと目の前を仰ぎ見ると、が俺を見下ろしながら笑っていた。

「メリークリスマス、宍戸。あんたが好きだよ」

・・・なんだよ、それ・・・?

「なに、無反応な訳?」
「え、だって・・・好きな奴にあげるって・・・」
「だから、あんたが好きだって言ってんの。これから良かったらどっか行かない?」
「あ、あぁ・・・」

思いもよらなかった、の告白は俺に対してで・・・。
本当は手放しで喜びたいけど、それはなんだか男として恥ずかしい気がして出来なかった。

「・・・俺、腹減った」
「私もー」

ざまーみろ、馬鹿跡部。
ざまーみろ、長太郎。
女なら誰でもいーって訳じゃねーんだってば。

「俺もさ、が・・・」











END

20100401:改訂後UP