+fish・wish+
久しぶりに朝っぱらから叩き起こされて、まだ少し寝ていたいと閉じかけた瞼を無理矢理開ける。
「コラ!隆!!早く降りてこい!!」
「うぉ〜い」
そうだった・・・。
クリスマスの前日、23日。
町中はもうすっかりクリスマス一色だけど、俺等青学テニス部にはあんまり関係ないようなもんだし(彼女持ちは別として)、
ましてや寿司屋なんかは出前もあるからクリスマスはむしろかき入れ時でてんてこまいになる。
久しぶりに今日は朝練がないって話に夕飯の時になって、それなら!って親父に半ば強制的に早朝の魚市場に連れて行かされる事になった。
魚市場・・・小6の時に行って以来だから、ほとんど3年振りみたいなもんか・・・。
急いで着替えて布団閉まって、外に停まってたトラックに乗り込む。
「よっし!親父!!」
「おっしゃ〜!!行くぜ隆!!」
「んで?今日は何仕入れるんだい?」
「マグロとイカ・・・ホタテと・・・クリスマスだからなぁ・・・出前が・・・」
親父の話を聞きながらフと横に置いてあるマグロを見た。
あ、あれ結構油乗ってて引き締まってる・・・もう少し近くで見たいかも。
俺はまだウンウン唸ってる親父から少し離れてマグロに近づく・・・
ドンッ
「す、すいません!!」
マグロばっか見てて周り見て無いなんて、俺もやっぱ寿司屋の息子なんだなぁ〜・・・なんて思いつつ頭を下げた。
「あれ、隆君?」
「えっ・・・・・・え〜と・・・?」
ぶつかった女の子に声を掛けられて、顔を上げてみたけど・・・?見たことあるような、無いような・・・?
「げっ、忘れたんだ?!」
「い、いや、忘れたって言うか、顔は見た事あるんだけど・・・」
「!!同じ商店街の魚屋の看板娘忘れないでよね〜?小学校でも同じクラスだったじゃん!」
「あ・・・」
そうだった・・・でも・・・?
「か、かわっ・・・たよね・・・?」
そう。確かに今目の前に居る彼女と小学校でクラスメートだった彼女は、なんとなく顔立ちは一緒だけど・・・
なんだろう・・・?大人っぽくなったっていうか・・・?
「うんーなんか久しぶりに会う人にはよく言われるかも。」
「うん、変わったよ!綺麗になった!!」
「・・・・・・よ、よくそういう事言って恥ずかしくないね・・・?」
「?」
ちゃんはちょっと赤くなって呆れ顔になった。
だって、本当の事だしな・・・。
「」ー!!鯖運ぶの手伝え!!」
「あ、はい!んじゃー隆君、今度遊ぼうよ!またね!」
「え、あ、うん!また!」
そのまま約3年振りに会ったは走っていった。
そうか・・・魚屋だもんな、そりゃー居るよな・・・。
久しぶりに会ったのに、なんだか新しい知り合いが出来たみたいな気がしながら、俺も親父の元へ踵を返した。
「ここでxを代入してー・・・」
数学。半分は頭に入っている・・・ノートも写しているし、教科書も開いている。
でも、もう半分は・・・・・・朝会った、ちゃんの事をどうしても考えてしまう自分がいた。
先生の言葉はどうしても聞こえて来ない・・・そう、朝あの帰りに仕入れた魚を積んだトラックに揺られながら思い出してしまったんだ。
俺の初恋は、だったっていう事を。
そんな彼女が、あの時より綺麗になってまた現れて・・・まぁ同じ商店街だからいつか会う事にはなってたんだろうけど。
そんな風に思ったら、小学生なのに色々夢見てた事をどんどん思い出して・・・それと同時にあの時の想いも・・・。
「ただいま〜」
明後日、クリスマス当日は終業式もあってか部活は休みになった。
そのせいもあって、今日の部活はいつも以上にハードでこってり絞られて、
みんなに<タカさん今日はなんかボーっとしてる>とか言われてフラフラになりながらの帰宅。
今日の飯は何かなぁ・・・
「おぉっ!丁度良いところに!!隆、ちょっと付き合えや!!」
「・・・はい?」
「クリスマス前日の商店街の会合だ!」
「・・・夕飯・・・」
勿論、俺の空腹は聞かなかった事にされた・・・。
また嫌々、半ば強制的に連れて来られた組合所。
・・・・・・・来て良かった・・・・・・!!!
入り口に差し掛かった時にフト見えた少し茶色い髪。
もしかして、って一瞬ドキッとしながら中に入る。
「あれ、隆君じゃん!朝振り〜♪」
「ちゃん、来てたんだ?」
案の定、そこに居たのは早朝会ったばかりのちゃん。
でも、一日彼女の事ばっかり考えていた俺の心臓は・・・。
「一応看板ムスメですから〜」
そう笑う彼女に、高鳴るばかりで。
さりげなく空いているちゃんの隣に座る。
ちょっとツッコミ入るかなーなんて思ってたけど、ちゃんからも親父からも何も言われなかった。
「そういえばさ、隆君」
「え、なんだい?」
「テニス部って忙しいんでしょ???会合来てて大丈夫なの?」
会合中だからか小さい声で、ちょっと俺にもたれ掛かってくる感じで話しかけてくる。
途端に香る、女の子の香り・・・・・・ドキッと、した。
「今日は部活帰りだし、明日は朝練無いから大丈夫なんだよ」
「そうなんだー・・・あ、あのさ・・・」
ちょっと下から、無意識でやってる感じで上目遣いで。
ちょっと・・・困った、かも。上目遣いって、それだけで結構色っぽいんだって、初めて知った。
「この後、時間大丈夫?」
「・・・・へ?」
「缶ジュースでお茶してこーよ!せっかく久しぶりに会ったんだし!」
「コラ!!そこの若造2人組ちゃんと聞けってー」
「「ご、ごめんなさい!!」」
いつの間にか声がでかくなってたらしく、会長さんに注意されてしまって返事は・・・出来なかった。
でも、でも。
「さー、じゃあ今日はここまで!お疲れさま〜」
会長さんの一言で今日のクリスマス商戦に向けての会合は終わった。
それに合わせて立ち上がる親父に俺は声を掛ける。
「親父、ちょっと先帰ってて。俺少し用事あるから」
「お?わかった。気ぃつけんだぞ」
そして反対の横を向いて、笑う。
「ちゃん、どこ行く?」
「隆君・・・」
結局俺達は商店街から少し離れた所にある公園に行って、入り口の自販機で立ち止まる。
ちゃんがホットレモンティーで、俺は暖かいお茶。
ちゃんがなんとなしに近くのベンチに腰を掛けた。俺は、隣に腰掛けるなんて出来なくて・・・そんな由夏ちゃんの傍に立つ。
「あのさ、テニス部忙しいんなら、いいんだけどさ」
「?なに???」
缶を空けないで握りしめながら、俺を見上げてくる。
「クリスマスイブって、空いてる?」
「・・・夜、なら・・・」
思いもしなかった言葉に、急激に焦った。
イブって、イブ・・・だよ?あ、もしかして店の状況報告をしよう、とか・・・?!
「お互いかき入れ時だしねー」
「相当ね・・・」
あ、やっぱり。・・・ちょっと・・・いや、だいぶ残念。
「じ、実はさ・・・私隆君の事好き、なんだよね・・・」
「・・・へっ!?」
「朝、まさか会うと思わなくてさー・・・会合いつもは行かないんだけど、もしかしたらって思って・・・」
今はうつむいてる彼女の、つむじを俺はひたすら見つめていた。
まさか、初恋を思い出してまた二度目、同じちゃんが気になってた所にこんな・・・
「だから、イブもし良かったらー・・・なんて思ったんだけど・・・駄目かな?」
「だ、駄目なんて事・・・無いよ・・・!!お、俺でいいのかなって・・・今朝久しぶりに会って話したばっかりなのに、
俺でいいのかなって、思って・・・」
彼女ならイイ人いっぱい居ると思うんだ。
そう、なにも、俺じゃなくても・・・
「隆君の事、見てたよ?テニス部の友達と店に居たりしてたり、部活帰りにお店に入って行ったり。
優しくて、力強い隆君の事、ずっと気になってた。」
「・・・・・・」
「店の手伝い終わってからだから、魚臭いかもだけど・・・会ってくれる?」
「もちろん・・・俺も、ちゃんの事、気になってたから・・・嬉しいよ、すごく。それに、魚臭いのは俺も一緒だよ」
初恋は実らないって言うけど、そうでもないのかもしれない。
お互い魚臭くて・・・でも、付き合いたてでこんな事思うのは早すぎるかもしれないけど・・・将来、
彼女の実家から魚を下ろしてうちで2人で寿司を握る。そんな夢を思い浮かべながら、俺はそっと由夏ちゃんの隣に腰を降ろして、
そのレモンティーで少し暖まった手を握った。
終わり