自分は決して稼ぎが悪いわけじゃあない。むしろ滅茶苦茶いい方なんじゃないかと思う。世間基準はよく分からないのだが、少なくともこの稼ぎがあれば普通なら、もうちょっといい所に住めるだろうし、毎日の食事だって困らないはずだ。
 その俺が何故毎月のように食うにも困るかといえば、実家への仕送りに稼ぎの三分の二の額を出しているからだろう。親父は刺青の彫り師を引退して、両親は二人揃って年金暮らしになっている。生活は困っていないようだが、俺自身育てて貰った恩として、二人に返しているだけである。



 そんなわけで今月も、飛び込み前払いなんていう都合のいい仕事もなく、金もないのでただぼんやりといつもの場所に腰掛けて、自分を買ってくれる客を待つ。



 しかしこの間は助かった。空腹と睡眠不足で自宅に倒れていた俺を、運送屋の兄ちゃんが助けてくれた。しかも自分で食うはずだったろう弁当まで食わせてくれた。しかも外国人だった。苦手意識があったが、いい外国人もいるもんだ。




 客待ちといっても、もうこの歳では声を掛けられることすら少なく、今や馴染みの客が買ってくれるくらいだ。
「アーキちゃん、今日は待ちぼうけ?」
 売りの偽名を呼ばれて、振り返る。
「スミ、久しぶり」いつもの常連客だった。スミ、は本名か偽名か分からないが、数年前から誰だかの紹介で会ったのが始まりだった。長身短髪、スミはよく似合っているサングラスをすっと外して、人懐こく目を細めた。左目の下に古い傷跡がある、聞いてはいないが「高校生の頃に喧嘩して三針縫った」と言っていた。まだ若く、何の仕事をしているのかは知らないが酷く金払いはいい。
「あー……お前を待ってて待ちぼうけだ。なーんて」
「嬉しいねえ。ちょっと待って、すぐ来れる奴いるかな」
 スミは人懐こい笑みを浮かべると携帯電話を弄くり、恐らく友人に連絡を取り始める。
「あんまり呼ばないでくれよ?」
「だいじょぶだいじょぶ」
 スミは少々変わった性癖を持っている。複数人で行為に及ぶのが好きなようで、しかもネコ一人を回す形。俺は今のところ、まだ3P止まりなので助かっている。聞けば6対1ということもあったらしいが、ネコが相当なマゾだったので上手く出来ただけだし、あんまり楽しめなかったと笑っていた。
「よし、捕まった。ちょっと時間掛かるみたいだから、飯食いに行こう。何食いたい?」
「何でもいいけど……肉だな。牛丼がいい」
「体力付けなきゃねえ」
 スミはくつくつと笑い、立ち上がった俺の肩に手を掛けた。





 牛丼の大盛りを奢って貰い、それでも時間が余っているということでコーヒーショップに入った。
「何人呼んだんだ?」
「一人だよ。俺ホントはアキちゃんのこと独り占めしたいんだけどさ、駄目なんだよ」
「……駄目、ってつまり」
「あ、違う違う。達けるけど、止めてくれる人いないと、アキちゃんボロッボロにしちゃいそうでさー」
 一回あんのよ、と笑うスミの目は笑っておらず、少しばかりゾッとする。
「あんまり酷いと、次からしてくんなくなっちゃうっしょ?」
「ああ、そうだな」
「アキちゃん結構強いから無理矢理も絶対に勝てないし。でもアキちゃんとは出来る限り、したいし。すげー葛藤ですよ」
 スミはそう言うと情けないような表情をして、携帯を弄る。メールが着たらしい。
 性癖は少しおかしいが、俺に気を使ってくれているのは確かで、スミは本当にいい奴だと思う。
「あ、そろそろ移動しよ。いつものとこっしょ?」
「ああ、向こうで合流か」
「そう、部屋決まったらまた連絡する感じ」
 席を立ち、いつものホテルへ向かった。