「いて…っ」

ビリっとした衝撃で目が覚めた。
なんで顔が痛むのかよくわからなかったけど、ベッドでぼーっとしてる内に昨日の晩殴られた事を思い出す。
そうだ、バーでナンパしてきた奴に付いてホテル行ったら、優しいと思ったらとんだSで殴られたんだった。
のそのそと起き上がり鏡を見に行くと、左頬が酷く青アザと共に腫れ上がり、口の端も少し切れていた。

(痛い筈だ…まぁ、でもこれで少しは男らしく見えるかな)

苦笑も出来ずに一人鏡の前で肩を竦める。
昨日夕飯奢ってくれるって言うから付いてったら、殴られた。それだけの事だった。

(あぁ、でもこの顔じゃ高倉さんの前には出られないな…)

今日駅前に居るとは限らないけど。
それでも、こんな顔の日に限って歌ってたら…と思うと悔しさが滲み出る。俺の取り柄はこの顔しかないから。良くも、悪くも。
昨日の殴ってきた男がここにきて憎くなってきて、次会ったらどうにかしてやろう。そう心に決めた所で、そもそもこんな顔じゃ外に出づらい事に気が付いた。
でも、家に独りで居たくない。マスクして出ればいいか…

少し悩みながら目線を移すと、外はいい天気だった。

(あ…   うさぎ…)

そうだ、うさぎなら俺の顔も、怪我も気にしないでいてくれる。
動物園、行こう。
最近知り合った、暑苦しくやたら構ってくるモップ頭の男・・・名前なんだっけ・・・ゴー・・・?そんなだった。
動物園勤務で、ウサギに触りたいと言ったら、いつでも来いと言っていたのを思い出した。額面通り受け取る訳じゃないし、居ればなんか聞いてくるかもだけど、それは無視すればいい。
触れなくても眺めているだけでもそれはそれで楽しそうだな、と思った。

いつも通り簡単に髪をセットして、マスクをして陽射しがまだ明るい外に出た。


いざ、うさぎ。