《来週の日曜の夜こっち来れるか?》

 実家の長兄からメールで連絡が入ったのは、臣とラブラブ〜な週末を終えて
寂しい週明けを過ごしていたある日。
たったそれだけのメールじゃ、なんで呼び出されてるのかよくわからなくて…でもまぁ、
GWの旅行がてら帰りに寄ろうと思ってたから《了解》とだけ返事をした。

 楽しくて幸せなGWの北海道旅行。
客室露天の付いた旅館でしっぽり過ごし、海の幸を堪能したGWの締めは我が家に
お土産を渡すという理由で兄貴達と仏壇に臣を紹介する事。
すんごく嫌がったのをなんとか引きずって連れて行くと、なぜか目を輝かせた兄貴が待ちかまえていて…
ちょっと臣には申し訳無い事をしてしまった。
なんで臣の事知ってたんだ?って思ったけど、まぁ悟の二丁目情報ってとこだろうな。
昼過ぎに実家に着いて、臣を大事な人だって紹介をして、夕飯の前に帰ろうとした時だった。

 「夕飯食ってけ。今夜はもう一人客が来るんだよ」

長男の諒兄が初耳な事を言った。

 「客?」

と問いかけた瞬間に玄関のインターホンが鳴る。
すると、三兄弟の仲でも一番パタパタと動き回る悟が出て行った。

 「客って、工房の客?」
 「ちげぇよ。なんで仕事の客が夕飯食ってくんだよ」
 「あ、社長お疲れさまです〜」

悟との会話をしていると混ざった、平日に聞きたくない声。

 「…高柳さん…?」
 「高柳?!え、どうしたお前…緊急な花氏でも湧いたか?」

仕事の話ならなんで携帯に電話しないんだ、と思っていると、高柳は眉間に皺を寄せて
 「せっかく社長がもぎ取ったGWにそんな無粋な事しませんよ」
と心外な!という余計な一言と共に反論された。

 「あ、俺が呼んだの。」

混乱していると、悟が居間に入って来る。

 「は?」
 「俺が、呼んだの」

そう言うと、高柳を座らせる。
呼んだ?なんで?臣と俺が仲良い裏付けでも必要なの?え?
横を見ると、隣に座っている臣も意味がわからないようでいつも以上に無表情になっている。
当たり前だ。
混乱していると、悟が高柳の隣に座って口を開いた。




 「俺ら結婚するから」


 「・・・・・!!」
 「・・・はぁぁぁっ!!??」
 「おう。」

意味がわからず今聞いた言葉を反芻していると、向かいから諒兄が普通に返事をしている。

 「……」
 「え、え、待って。意味がわからない。…・いつから!?って、悟兄知ってたんかよ!!」
 「おう。時々飯持って来てくれてた。高柳さんの飯美味いんだぞ」
 「…・しらねーし…」

あまりにも突然の話過ぎて全く意味がわからないでいると、背中に温もりを感じる。
次いでそっとポンポンと撫でられ横を見ると、臣が真っ直ぐ俺を見ていて「落ち着け」と一言発した。
臣の言葉はいつも魔法みたいで、その低音は発せられるとすっと心に効いてくる。
今も不思議と心から落ち着いてしまい、念のため一回深呼吸をすると、改めて高柳と悟を見た。

 「…もう長いのか」
 「4年位」
 「…なんで俺しらねーの?」
 「内緒にしてたから」
 「…なんで」
 「面倒くせー事になりそうだから」

うん、まぁ確かに。それは納得だ。
苦笑している高柳を横に置いてひたすら悟が答えてくる。兄弟としてはそれでいいんだけどな…
でも、俺と高柳は〈彼の弟と兄の彼女〉だけじゃないから。

 「高柳」
 「はい」
 「仕事はどうすんだ」

途端に上司の顔になった俺を、臣が見てきたのがわかった。
心配しなくて大丈夫だよって言いたいけど、今はちょっと待ってて欲しい。
キリッと秘書の顔になった高柳が、口を開く。

 「続けます。子供が出来たら産休は頂きたいですが、復帰もしたいですし、辞めるつもりはありません。」
 「…新婚旅行は?」
 「あ、それは出来れば行きたいです…」

フム、と少しだけ考える。
俺だって行かせてやりたい、が、問題は高柳がいないと俺の行動力が半減するって事で。
でもそれについての答えは一つしかない。

 「わかった。長期休暇になりそうだったら、今後の事も踏まえてサブを付けよう。人選は任せる。
高柳がいない間ちゃんと俺のサポートが出来るようにしといてくれ」
 「わかりました」

ふぅ、と一息吐いて二人を見る。
そう言われて見れば、お似合いかもしれなかった。

 「おめでとう」
 「おう」
 「ありがとうございます」

お互いにフ、と笑い合うと、高柳が「あ」と声を出した。

 「生方さん」
 「…え、あ、俺…?」
 「結婚式、来て下さい」
 「…え?」
 「真さんの大事な人ですし、私の友人とも思っています。どうか、来て下さい」

 臣は思ってもみなかった申し出に、真っ赤になってあーとかうーとか唸っていた。
マイペースなようで実は焦っていた臣は、こうして無事家族に迎えられ、長兄にとっては新しい家族が一気に二人も
増える宣言をされた日になったが、幸せそうに笑っていた。

それから数日、臣はどうにか兄貴達の結婚式を欠席出来ないか考えているようだった。
無理そうだから、諦めたらいいと思う。

おわり