金曜日の夕方、急いで仕事を終わらせると車を走らせる。
本当は臣の職場まで迎えに行きたかったけど…今日はちょこっとだけ、作業着ではまずい所に行くから。
先週のデートの時に「家に迎えに行くから着替えておいてね」と伝えたやりとりを思い出しながら、
もう何度も通った道を進み臣の住むアパートに停車する。
トントン、と音を控えめに階段を登ると、少しだけ緊張しながらいつもの扉をノックした。

 「…おう」

ドアの中からかすかに声が聞こえたのを確認するとそっとノブを回す。
鍵は掛かってなくて、すんなり開いてしまった。

 「臣〜鍵掛けないと駄目だよ〜」

無用心さが少し心配になって、ついつい開けながら挨拶もせず文句を言ってしまう。
中に一歩踏み込むと、臣がノソノソと玄関に出てくる所だった。
歩み寄りながら臣は、俺の姿を見つめ苦笑する。

 「お疲れさん。…真さんしか来る予定がないから大丈夫かと思って」
 「お疲れ様…それでも心配だよ」

玄関まで迎えに出てくれた臣をとりあえず抱きしめながらぼやく。
俺小姑みたいだな、なんて思うけど、それでもやっぱり心配は心配だから。

 「わかった、気をつける」

苦笑混じりにそう言ってくれるのを受け止めながら、少し背伸びをして軽いキスを。

 「そうして?…会いたかった」

唇が離れると同時に囁き、抱きしめた腕の力を少し強めた。
平日の五日間がこんなに長く感じるようになったのは、臣と付き合いだしてから。
片想いをしてる間は平日しか会えなかったから、五日間が毎週あっという間だった。我ながら欲深い、なんて
しみじみ思いながら、それでも最近はそんな風に思えるのも臣という大事な存在がいてくれるからだと、
焦れるような五日間にも感謝出来るようになった。

 「俺もだ」

短い、裏も表もない実直な臣の気持ちが告げられると…いつも胸が切なく疼く。
言葉少なだからこそ、いつも臣の言葉はまっすぐでストンと俺の心に響く。それだけは、付き合う前も
恋人になってからも、お互いを伴侶に、と決めた今も…いつだって変わらない。
そっと抱きしめていた腕を外すと、臣に微笑みながら「用意は出来てる?」と聞く。
おう、と短い返事を聞くとそのまま手を繋ぎ、外に止めてある車に向かった。

 「夕飯は、今夜はニアのとこ。そのままホテルに泊るからね」
 「…わかった」

空けといてね、としか言ってなかったので「ホテルに泊まる」というのが予想外だったらしく、告げると少し
驚いたように眉が動いた。でもそれも一瞬で、微笑むと助手席に乗り込む。
自分も慣れ親しんだ運転席に乗り込むと、そのままニアのお店に向かった。



●○●



 casAでの夕飯は一番奥の席に二人で座る。
ニアの「生さん、一日早いけど誕生日おめでとう」の言葉と共に運ばれた料理で始まり、ユキちゃんに
お願いしておいたCDサイズのミニ誕生日ケーキを半分こして、美味しいコーヒーと一緒に頂いて締めた。
全部俺がお願いはしたけど、ニアもユキちゃんも生さんの、兼臣の為ならお安い御用、とむしろ祝わせてくれと
言わんばかりで、臣の人柄だよね〜なんてちょっと誇らしい。
誇らしいけど、ニア。俺の時もしてくれるのかな?…そもそも俺の誕生日覚えてないだろうけど、なんて。

 「ご馳走さま。色々ありがとうな〜」

お会計しながらそう告げると、何言ってんの水臭い、なんて肩を竦めながら請求されたのは俺の食べた分だけだった。
友情っていいですね〜としみじみ思いながらお店を出て外で待っていた臣を見ると、幸せそうに微笑んでいる。
あぁ…ずっとこの笑顔が見ていられるなら、なんだって出来る。どんな事だって出来ると心底思う。
来年も再来年もこの先ずっと、臣の誕生日をこうして祝っていきたいと願った。



おわり