事の起こりは彼がレギュラー落ちした事だった。
揃いも揃って美形揃いの、良い意味で個性派集団な豊作テニス部で多少のいぢめには合いつつも、
今まで無事にいたのはその豊作な中に居ても”鑑賞用”なだけで誰にも惹かれなかったから。
なのに・・・
予想外だよ、こんな気持ちは。
+expect+
「ねぇ・・・邪魔なんだけど・・・」
「気にしなくていい」
「いや、そういう問題じゃないし!」
放課後の家庭科室に掃除で来たら、乾が居た。
どうやら、また「汁」の新型改良中らしくミキサーやら野菜やらが出揃っている。
「はい、ちょっとどいてねー」
足下だけでも掃いてしまおうと乾をどかす。
ミキサーの真横を通るが・・・どうにも青臭さが鼻につく。
思わず覗き込むと、乾が話しかけてきた。
「見た目は悪いが健康にはいいんだぞ」
「え、そうなの?!」
「お前・・・みんなが苦しんでるのみて楽しんでるだけだと思ってただろう」
ハァ・・・と乾がため息をつく。
「さすが乾・・・なんでもお見通しだね!」
「相変わらず失礼な奴だなは・・・」
でも実際、そうだと思っていた。
乾が根拠の無い事はしないとは思いつつ・・・
「みんなに飲ませる姿が嬉しそうだったんだよね」
「楽しいさ。」
「楽しがってんじゃん!!」
「・・・飲むのは嫌だろうが、飲めば不足しがちな栄養は取れる。
試行錯誤して出来た物を飲んでもらえるのは嬉しいもんだろう?」
それはまるで、女の子が頑張って作ったお菓子を食べてもらえたのが嬉しいように。
乾って・・・乙女だな・・・。
乾は苦笑しながらも言う。
「奴らも体に悪い物は入ってない事くらいはわかってるみたいだからな。嫌がってはいるし、
味の改良をしてくれとは言われるが・・・改良を止められる事はないな。」
と、見れば口元は笑っていた。
・・・・・・そうだ。根拠の無い事は乾はしない。
わかってはいたけど・・・結びついてはいなかった。
「ごめん」
「イヤ、いいよ。予測済みだ。」
コイツ・・・。
でも、反省しなきゃな・・・。なんだか、とても乾に悪い事した気分だった。
沈んだ気分が外に出ていたのか、頭を撫でられる。
「そんなに気にする事じゃないさ」
「うん・・・」
大きい手だなぁ・・・身長があると足と一緒で手も大きくなるのかなぁ・・・ちょっと心地いい。
「」
「ん?」
撫でられるままに頭上から降ってくる声に返事をする。
「料理は得意か?」
「得意じゃないけど・・・普通に出来る。」
見上げると口元には優しい笑み。
あぁ、この人は目が眼鏡に隠れて見えにくい分、口元に感情が表れるんだな、と思った。
「味の方の改良を手伝ってみないか?」
「味?」
「ああ。俺は味オンチでは無いんだが・・・何を足せば味が整うかがまだイマイチでね」
知らなかった乾の一面。
「何を思って作ってたのか」も、「料理に関して少し不器用」な所も、今日初めて知った。
それがなんだか嬉しくて、
「やる」
すぐに答えていた。
やる事にソツが無いように見えた乾がこの時身近に見えた。
あれから、部活と授業が始まるまでの時間私と乾は家庭科室に入り浸るようになった。
いかに万能な塩や醤油、ハチミツ(?)でも強烈な青臭さやニンニクの匂いを消す事は難しく、
かなり骨が折れたが、やりがいがあったし、乾とする話は楽しかった。
そんなある日。
「・・・よし、これで新型は良しとしよう。お疲れ、。」
乾のOKが出た。
「でもさーこれそんなに味の緩和出来て無いよ?」
「いいんだよ、どうせ仕様用途はペナルティー用だ。少しマズイ位が丁度いい。」
思惑通り、その日の部活で早速使われた「新型」は、相変わらず飲んだ部員を水飲み場へダッシュさせた。
が、部活後。
「乾先輩〜」
桃が走って乾に近づく。
みんなのタオルを集めていた私は、会話には入れないけど内容は聞こえていた。
「なんか今回の汁、今までと違ってびっくりしたっス!」
続いてレギュラー陣のほぼ全員が集まってきた。
「そうそう、今までは水飲んでも気持ち悪さは残りまくってたんだけど、今回のは残んないのな!」
少し興奮気味にしゃべる菊丸。
「僕は今までのが好みだけどね・・・ん?みんなどうしたの?」
不二の発言に一歩離れるみんな。
良かった・・・私が参加した事に、意味はあったんだ!
思えば、味を整えるハズが返って逆になってしまい、乾に迷惑をかけた事もあったから。
乾の役に立てたというのが嬉しかったし、みんなに感想を言われてかすかに綻んでる乾の口元を見れば、尚嬉しかった。
次も、あるんだろうか・・・。
思い返してみると、乾と2人でいた家庭科室はすごく眩しかったように思えた。
次の日、家庭科室に行こうとしたら教室に乾が来て、
「しばらく新型で行くから作るのは休むよ」
と言われた。
何か、急に寂しい気持ちになってやる気が失せる。
手塚が部活中に
「!そこに居られると邪魔だ!!」
とか言っていたけど、どうでも良かった。
そして気が付くと、部活もとっくに終わっていて。
そうだ・・・今夜はから電話が来る予定だったんだ。どうせタカさんの話なんだろうが・・・
ならば早く帰らないとー・・・と干した洗濯物の下にいた私は思い立ち、帰ろうと洗濯カゴを置いた。
そこへ聞こえてきた・・・足音。
顔を上げると、乾が走っていた。
汗をかきながらもロンジャーで、時々ずり落ちる眼鏡を押し上げながら。
時間を見ると、7:00を回っている。
部活はとっくに終わったのに・・・いつから走っているんだろう。
胸が一瞬苦しくなった気がした。
私は、それが何なのかわからなかった。
乾がフェンスに持たれて座り込む。それを見計らって、タオルを差し出す。
「?」
「お疲れさま」
口元が”無表情”だ。なんだろう・・・バツが悪い感じかな・・・?
「まだいたのか。こんな遅くまで危ないぞ?」
「父親かアンタは・・・」
タオルを受け取りながら答える乾は・・・恥ずかしがってる?
「もしかして、ずっと毎日一人で練習してたの?」
「・・・ああ」
「こんな遅くまで?」
乾の口元が苦笑に歪む。
「ああ。一応レギュラーの座にもう一度って野望があるからな」
本音。
私は・・・”新型改良”に本当はかまけている時間なんか乾には無い事を知った。
バカだ私ーーーーー。
「・・・他のレギュラーの何倍こなしてるの?」
「・・・5.25倍」
「ちょっと待ってて!!」
座ってる乾をおいて、一人部室へ走る。
タオルは渡したから・・・あとはポカリと・・・チョコ!!
また走って戻るとちゃんと乾は待っててくれて、私はそのまま乾に持ってきた物を差し出す。
「差し入れ?」
「うん。隠れ頑張り屋の乾に。」
「確かに”隠れ”だな」
うっすら笑いを浮かべながら、差し入れを受け取ってくれる。
「ポカリと・・・チョコ。疲れてると甘い物欲しくなったりするから一応。私のおやつの残りだけど・・・」
「ありがとう」
「まだやんの?」
「あぁ。帰ってからも筋トレだしな」
「そっか。・・・んじゃ帰るよ」
「気をつけろよ」
「おう!乾も頑張れ!!」
乾に背を向けて、帰ろうとした。
その瞬間・・・
私の腕、誰かに捕まれてる・・・。
振り返ったら、乾だった。
な、なんだ?!
乾もどうした?って感じだけど、それより私の心臓!!
なんでこんなに・・・・・
「どうしたの?」
普通を装って口を開く。
すると腕を掴んでいた手を離してくれた。
「イヤ、なんでもない。気を付けて帰れよ」
「う、うん」
そして、私は逃げ帰った。