梅雨。
蒸し暑いながらも雨が降ってしまうと少し肌寒いこの時期に、俺、桃城 武は彼女に出会って恋をした。







Tear's rain






フト何かの気配を感じて窓を眺めた。

「ゲ、雨じゃん」

今朝家を出る前にチラ見した天気予報じゃ、一日中曇りって言ってたよなー・・・くそっ、ヤラレタ。
梅雨の最中の天気予報程アテにならないものは無いってーのに、すっかり俺とした事が・・・
つまり、簡単に言えば傘を忘れたんだった。
あと一時間で授業は終わりって事は・・・今日の部活は校舎内か体育館で筋トレってトコか。
これだから梅雨は苦手なんだよなぁ・・・せめて帰る前までに止んでくれりゃーいいけど・・・。







「桃」

10分休憩に呼ばれて、読んでいたマンガから目を離して見渡すと教室の出入り口に大石先輩が立っていた。
(今日の部活の事か?)
そう思いながら戸口に急ぐ。

「部活の事っすか?」
「あぁ、今日あと一時間で止まなければオフにするそうだから」
「オフっすか!?」

予想外の展開に驚いてしまう。
だって今日って土曜だぜっ!?

「たまにはこういうのもな。悪いが他の二年と越前に伝えてもらっていいか?」
「あ、もちろんっす」
「助かる。あと越前には、他の一年に伝えるように言っておいてくれ」

相変わらず穏やかな笑顔で大石先輩はそう言って、一階へ向かって行った。
それにしても、土曜にオフかーめずらしいな・・・ん?他の二年って事は・・・マムシにもかよっ!!
・・・かったりぃな。


結局マムシへの連絡は荒井達に任せて越前への報告を済ませた。
まぁ、小降り程度は振ってる内には入らねーから、微妙な時は部室行くか職員室前の部活動予定書き出し用ボードを見ろ、という事になった。
しかし、微妙も何も四時間目終了した今、外は大雨、有無を言わさずのオフ。
・・・何をしよう?いきなりオフって言われてもなー・・・この雨だし、チャリだし・・・とりあえず帰るか。














「帰ったー」

<ただいま>の代わりにそう告げた。

「あれ?武、部活は?」
「めずらしくオフだってよー」

リビングから顔を出したお袋に返事して、そのままリビングのテーブルに着いた。
結局、学校では食う事の無かった弁当を広げる。

「ヤダ、先に着替えくらいしなさいよ」
「腹ごなしが先」

少し呆れ気味のお袋を尻目にまずはオカズに箸を持って行った。

「あ、オフなら丁度いいわ!武、ビデオ返しに行ってくれない?」
「い?!」
「今日返却日なんだけど、お母さんまだやる事あるのよ〜」

お願いっ!と顔の前で両手を合わす。
この大雨の中また出掛けろっつーんかよ。

「たまの休みくらい・・・」
「明日からお弁当作ってあげないわよ」
「・・・行かせて頂きます。」


・・・くそぅ・・・。







昼飯を食い終えて部屋に行く。
もう少し小雨になったら出掛けっか・・・って、小雨になるかどうかなんて、てんでわかんねーけど。
ところが、制服から着替え終わって外を見ると以外にも雨は少し弱くなっていた。
・・・よしっ!!

「お袋ー行ってきちまうわ」
「ありがとう〜そこに置いておいたからよろしくね〜」

呑気な声を聞き流して玄関を出た。























「ありがとうございましたー」

レンタルビデオ屋の高校生か大学生っぽいお姉さんの声が響く中自動ドアをくぐると・・・

「最悪・・・」

また大雨に逆戻りしていた。
通り雨かと思ってたら結局本降りかよ・・・ったく。もう少し中で時間潰すか・・・とか悩んでいた。



ガーッ・・・



また少し間の抜けた<ありがとうございました>と一緒に、俺の隣に誰かが立った。
特に気にした訳じゃなかったけど、ただ何となくその隣に立った人を見る。






--------かわいいっっ!!
モロ好み、モロ好みっ!!
ちょっと低めの背だとか、恨めしげに空を見てる目が好みっ!!
あからさまに顔に気持ちを出すと本当の変態っぽくなるから、部長っぽく・・・と顔を強ばらせようと勤める。
でも、目線がどうしても・・・って、あれ?さっきから動かねーな・・・もしかして傘持ってねーんか?

「・・・・・・」

ふいに目があってしまった。
見てたのがバレルのってなんかすげー居心地悪ぃな・・・。
彼女は一瞬<?>って顔してまた正面を向いた。

「あー、あのさ、もしかして傘無いの?」

声をついかけたのは無意識で、ナンパするつもりなんかじゃ、もちろん無くて。

「・・・・・・まぁ。」
「これ、良かったら使えよ」
「・・・ナンパですか?」

やっぱそう聞こえちまうよなぁ・・・

「まさか。俺んち近いからさ。ホラ」

けげんな顔で受け取ろうとしない彼女に、俺は少し苦笑して足元に傘を置いてやって雨の中に飛び出した。

「えっ!ち、ちょっと!?」
「ナンパじゃねーからな!俺、青学2年の桃城っつーんだ」

それだけ伝えて、走って帰った。
・・・ん?結局これってナンパになるのか?








「ただいまー」
「おかえり、ありがとうねー・・・って、ずぶ濡れじゃないの!!傘持って行ったんでしょ?!」
「ビデオ屋で盗まれちまってよー風呂入ってくるわ」

適当に嘘を吐いて風呂場に直行。
程良い温度のお湯を浴びながら、浮かんでくるのはさっきの子の事・・・。
結局ナンパっぽかったよな・・・俺、格好悪かったかな?イヤ、イケてたか?自分じゃわっかんねーよなー。
でも、マジかわいいと思った。名前、知りたいな。
彼氏とか・・・いても、負けねー。
でももし、傘返しに来てくれたら、チャンスだろ!?今日オフになって感謝だよな!!












日曜日。朝は曇りでいつも通り部活。
彼女は来なかった・・・まぁ日曜だしな!



月曜日、朝から梅雨らしい天気・・・つまり、雨。
でも、今日は部活があって第二体育館で筋トレ。
彼女は来ない・・・忙しいとか、来るか迷ってんのかもしんねーし!!



火曜日、一日曇り。今日の部活メニューは試合形式中心。
彼女はまだ。
・・・来ねーのかな・・・。



水曜日、久々の晴れ間・・・でも、ほとんどが曇り。
なかなか天気も気持ちも快晴にならないもどかしさに、八つ当たりの様に空を見上げていた部活前の時間。
・・・もう、駄目なのかな。始まってすらいなかったけど、それなりにショックはデカイっつーか・・・

「桃城君ー」

うるせーな、俺の心は今傷心の旅に出てんだよ・・・。

「ちょっとー傘返しに来たんだけどー!?」





はっ!?
急いで振り返ると、あの雨の日のカワイコちゃん!!

「え!?な、なんで校舎内!?」

いっそいで教室の入り口まで走る。途中誰かの机やらイスにぶつかりながら。
すごい焦った顔して彼女の所に辿り着くと、彼女は少し呆れた顔していた。

「大丈夫?」
「あ、ああ・・・青学の生徒だったんだ?」

そう、彼女は青学の制服を着ていた。
勝ち気な瞳はそのままに・・・制服ってだけでこの間よりも身近に感じる。

「うん。しかも同じ二年なの知ってた?」
「・・・知らない」
「まぁ私は帰宅部で、弁当派だからね。知らないのも無理無いよ」

相変わらずちょっとぶっきらぼうな言い方。でも、この間よりも何となく柔らかい感じがするのは気のせいなのかな・・・?
にしても、同じ学校だったとは・・・。

「なんにしても、これありがとうね。あの後もっと降って来たから助かった。」

三日振りに帰ってきた傘を受け取る。
感謝はされて好印象っぽいけど、これで終わりは・・・ありえねーな、ありえねーよ!!

「あのさ、名前教えてくれよ。あとクラスも」
「・・・、2組。あ、あのさ、その・・・自惚れだったらかなり私痛いんだけど、でも一応言っておく。
私好きな人居るんだわ。だから、その・・・脈ナシ・・・って事で。」
「ふーん」
「・・・・・・」

言いずらそうな彼女、ちゃんの顔を見ながら俺は普通に受け止めていた。
だって・・・

「わりぃけど、関係ねーから。」
「は?関係、無い?」
「ああ。その、気になってる奴がどんな奴でも、負けてらんねー。大体、俺がどんな奴か知ってもらってもいねーのに断られても困るし。」

俺の返答にちゃんは唖然としてた。
そりゃそうなんだろうな・・・でも、本当の俺の本心だ。折角巡ってきたこのチャンスをむざむざ逃すなんて事はしたくねー!
なら、俺は押すしかねーだろ?

「あ、あの・・・」
「あぁ、あんたの恋路を邪魔するなんて事はしねーよ、そこまでガキじゃないつもり。」

返す言葉に詰まったらしく、見上げられた。

「フツーに友達としてでいいから、俺を知って欲しいんだ。返事はそれからにして欲しい」

ちょっと俺って格好良くね?なんて、本当の本当に本心だけど。だって、やっぱイヤじゃねー?切ねーだろ・・・
友達関係すら始まってなくて、俺がどういう奴か知ってすらもらって無いのに却下、なんてーのは。
少なくとも俺は、嫌だ。
ちゃんは俺から目を逸らしながらちょっと難しそうな顔をして、そして俺に目線を戻した。

「・・・わかった。でも、友達だからね?」
「おう!!」
「それからどう転ぶかはわかんないんだよ?」
「いーんだって!何も知らないのにOKされて、後から思ってたのと違う!とかも言われたくねーもん。友達上等、持って来い!だ。」

俺のセリフにちゃんは、笑った。

「変な人だね、桃城君って。」
「そうか?」
「うん。賑やかな人なのは知ってたけど、こういう性格だとは思わなかった」
「じゃあ、俺にとってそれは一歩前進だな!」

2人でなんとなく笑い合って、なんかイイ雰囲気・・・と思ってたら。
彼女は突然ムッとした顔になった。

「あ、イカンイカン。雰囲気に流されるのはイカン。」

笑える。もしかして、ちょっと天然なのか?それとも、ちゃんと考えようとしてくれているのか・・・?
まぁどっちにしても、俺が面白いからいっか!

「雰囲気に流されたんならそれはそれで俺はいーけどな」
「駄目です。友達でしょ?」
「あぁ、よろしくな、ちゃん!」

ニヤっと笑って、少し前屈みになって彼女のおでこにデコピン。

「イッタ!!ちょっと!!・・・しかもいきなり<ちゃん>なんて、図々しい・・・」

なんかブツブツ言ってんなぁ・・・。

「いーじゃねーか、小せー事気にすんなって。」
「小さい事とか言わないで下さい。・・・ホラ、桃城君部活あるんでしょ?行きなよ」
「<武君>って呼んでくれんなら部活行ってやるよ。」

ちょっと先走りすぎか?・・・でも、ホラ、友達だし!!アリだよな、アリ!
ちゃんはムスーっとした顔になっている。今度は馴れ馴れしい、とでも思ってんのかな?

「なんで私が<桃城君>を部活に行かせる為に名前で呼ばないといけないのよ。」
「ホラ、友達の部活姿勢は正さないとな!」

ムスーっとした顔から嫌そうな顔になった。
・・・百面相?

「知りません。じゃーね、<桃城君>!!」

ありゃ、やっぱちょっくら先走りすぎたか・・・?
やけに<桃城君>を強調してちゃんは背を向けて行ってしまった。
ま、いっか。
ちゃんは傘を返しに来てくれた訳だし、友達にもなれたし、結果オーライだろ。
梅雨だってそろそろ明けるし、名前だって、これからどうとでもなる。
好きな人?知らねー。絶対俺の方を振り向かせて見せる。
友達になった時点で、俺の<勝ち>だろう?まだ見ぬ誰かさん。

俺はまだ知らないちゃんの好きな人に心の中でそう宣戦布告した。



・・・って、ヤッベェー!!部活始まってんじゃん!急がねーと!!








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20100401:ちょっと改訂