ある日、学校帰りのゲーセンでちゃんが好きだって言っていたキャラクターのぬいぐるみがUFOキャッチャーの景品になっていた。
あげたら喜ぶかな、なんてガラにも無く考えちまって・・・丁度財布の中見たら百円玉が5枚位入ってたから、
これで取れなかったら止めようって始めて、結局なけなしの千円崩しちまって百円玉通算8枚目くらいでゲットした。
今そのぬいぐるみは、家にある。
もう少し仲良くなってから・・・せめて、2人でどっか行ける位仲良くなったら、渡そうって思った。







tear's rain <2>






あれからちゃんとはつつがなく<お友達>をしている。休憩時間に廊下でバッタリ会えば話をするし、
俺は忘れ物をするとちゃんに借りに行く。もちろん、彼女もブツクサ言いながら貸してくれる。
でも、俺としてはそろそろ学校帰りにでもどっか寄ったりしてみたい。
ただ、<友達>の範囲って・・・例えばマック寄ったり休みに遊びに行ったり、
遊びに行くにも2人でか誰か呼んでみんなでワイワイ行くとか・・・どこまで許されるんだろうな・・・。






「なーちゃん、今日帰り暇?」
「・・・・・・なんで?」
放課後、部活が無いのをいい事にちゃんが帰る前に捕まえないとってSHRをさぼって教室から少し離れた所で待ち伏せ。・・・俺ってけなげ?
なにげない会話したり、馬鹿話したりするけど実はまだこうして帰りにどっか・・・っていう誘いをかけると少し身構えられる。
俺ってそんなに信用ねーんかなぁ?って前にぼやいたら、なんか軽いんだよねって返されたっけ。
で、今日はリベンジ。

「腹減った。マックでも寄ってかねー?」

ちゃんは少し怪訝そうに俺を見上げてちょっと悩んでる素振りだ。もう一押し・・・か?

「なんか新作出たらしいんだよな。どうよ?」
「うーん・・・ま、いっか」
「よしっ!カバン取ってくっから昇降口で待ってて」
「わかったー」

よっしゃ!!
ダッシュで教室へ。この時間ならSHRも終わってんだろ。
にしても、あれだよな・・・これで「放課後2人でマック」はOKって事だよな?
じゃー次の関門は、「休みに出掛ける」、それも<2人で>か<みんなで>か見極めるってトコか。
でも、これまた一歩前進だよな!?
もう少ししたら、あのぬいぐるみ渡したっていいよな?変・・・じゃねーよな?











「おまたへー」
「はいはーい」

あぁ・・・なんか良くねー?この感じ。待ち合わせしてどっか行くなんて、初めてだもんなー・・・。
ちょっと感慨深いってーか、なんちゅーか。
駅前までのマックまでの道のり、俺達は色々話した。例えば好きな音楽だったり、好きな芸能人だったり、
部活の事だったり、数学の鈴木先生が卒業生と結婚した話だったり。
今まで一日に少ししか話せなかった事が、今日は時間気にせず話せる・・・幸せかもしれない。

「えーっとー、このセットに追加でハンバーガー二個とナゲット。ジュースはコーラで。」
「・・・よく食べるねぇ」
「そっか?こんなもんだろ」

横でちゃんは目を丸くしている。
・・・家帰って夕飯も食うってのは言わない方がいいのかな?
席について少し落ち着く。ちゃんは普通のチーズバーガーのセットらしい。

「・・・でも本当良く食べるね・・・」
「いや、だからみんなこんなもんだって!」
「男の子ってすごいんだねぇ」

いかにも感心したように言うのがおかしくて、笑ってしまう。






「でさーがそう言うのさ!私そこでやっと冷静になれ・・てー・・」

マックに来てから気付けば一時間は経っていた。
俺等はすっかりうち解けていて、それまでの無難な会話からお互いの事を話せるまでになっていた。
今は、丁度ちゃんの最近あった出来事を聞いていた所だった。
変な所で途切れた会話。
なかなか続きも言い出さなくて、手元のジュースから俺は視線を上げて訝しげにちゃんを見ると・・・
なんとも言えない表情で俺の後ろを見つめていた。

ちゃん?どーした?」

いきなり遅いかかってくる嫌な予感。
後ろを振り向くべきなのか、振り向かない方がいいのか・・・。
そうこう悩んでる間にもちゃんの表情は強ばるばかりで・・・。

「オイ、!」

振り向いて根源を確認するより、彼女の意識をこっちに戻す事が先決だと思った。

「あ、ご、ごめん!なんだっけ?!」

いかにも無理してるような、いかにも無理矢理意識をこっちに向けようとしているような。

「大丈夫か?」
「な、なにが?」

ちゃんは今、俺しか見てない。俺との目線を反らせようとしない。
それが、俺の後ろを見たくないからだって・・・俺の後ろに彼女にとっての<嫌な事>があって、
今目の前で会話していた俺よりそっちの方が彼女の中ででかいんだって・・・思い知らされる。
一体なにがあるのかは、わかんねー。でも・・・多分・・・・・・。
わりぃ、俺そこまで強くねーんだわ・・・。
知り合って、まだ日が浅いのはよくわかってっけど・・・。

「そろそろ出るかー」
「あ、うん。そうだね」

さりげなくだけど、ホッとした表情をする。
それもキツイけど、ここに居座るよりは出た方がいーよな、お互い。
ちゃんを先に行かせて、俺は席を離れる寸前、今まで座っていた席の後ろを見た。
ラッキーなのか、なんなのか・・・後ろには一組のカップルしかいなくて、しかも男の方は青学の生徒な上、見た事のある顔だった。















お互いしばらく無言で歩いていた。
最初はお互い会話を探してとりとめの無い事を話していたけど、どれもさっきまでの盛り上がり様が嘘みたいに微妙な間で会話が終わっていく。
(そういえば、この先に公園あったな・・・。)
こんな中途半端な展開で家に帰りたくない。
わかってる・・・あの後ろに居たのがちゃんの気になってる人だってのは、わかってるけど・・・ちゃんと話したかったし、
ちゃんがこんな調子で放っておきたくないのも正直な所だった。

ちゃん」
「ん?」
「ちょっとここで待ってて」

反対車線に見えた自販機に向かって走った。
俺はポカリ、ちゃんにはレモンティーを買ってまた元の場所に走って戻る。

「・・・なに?」
「俺の奢り。そこの公園寄っていこうぜ」

一瞬、日も沈んだ公園に男と2人なんて・・・って思ったけど、元々苦手なそういった恋愛の計算事を考える余裕は今の俺には余計、ない。
すっかり日も暮れた公園。
嫌がるかと思ったけどなぜかちゃんは俺についてきていた。

「あのさ・・・後ろに居た男、ちゃんの気になってるって言ってた奴?」
「・・・・・・」

元々小細工が苦手なんだよな、俺って・・・。
ちょっと考えて、やっぱ俺は俺らしくズバッと聞くのが性に合ってると思い直して。
口に出してから、ぶっきらぼうな言い方だったかな、とも思ったけど、ついさっきの事だし・・・いつ、どこでの話をしようとしてるか、なんて言わなくてもわかるハズ。

「・・・・・・・・・・・・」

無言が、肯定。
確かあの男は、同じ二年のサッカー部・・・一緒に居た女の子の着ていた制服は他の中学だった。

ちゃん・・・」
「なに・・・」
「・・・・・・」
「なによ」
「いや・・・」

話しかけたはいいが、何を話していいかわからない。
ちゃんは今、傷ついているんだろう・・・でも、今まで、さっきまで君と話してたのは俺だろ・・・。
俺を・・・まだ見てくれないのか・・・?
あれからもう二ヶ月以上経つ・・・たった二ヶ月友達やった位で、とかも思うけど、
でもその二ヶ月が楽しくて充実してたからこそ、思う・・・・・・・・・いつになったら・・・?
そもそも、俺が君を好きだって、憶えてるのか・・・?
幸せだった放課後をいきなり奈落に落とされた気分で、駄目だって思うのに自分の感情が先走りだす。

「・・・彼女が居るらしいってのは知ってた。」

ポツリと呟かれた、こんな場所でもない限り聞き取れない程の小さな呟き。

「知って・・・?」
「うん。見ちゃったのは、今日初めてだけど・・・」
「そうか・・・」

ある程度の覚悟は出来てた、って事か?顔色を伺うと、彼女はもう大分落ち着いてるように見えた。





なら・・・?





なら、俺との事は・・・?






「・・・桃城君、ごめん」
「・・・なんで謝ってんの・・・?」

さっきよりも強烈な嫌な予感。
ヤベーっ・・・心臓破裂しそう・・・試合なんかとは違う・・なんだこの感じ・・・!?
ちゃんは、下を向いたままで。
俺は、ちゃんを見つめて・・・でも、鼓動が早すぎて、今見てるちゃんをちゃんと認識出来てるのかは自分でもわからない。
それから、少し黙ったままのちゃん・・・。

「・・・ちゃん」

俺の呼びかけに、彼女が一瞬ビクッとなる。
そして恐る恐るというように上げた瞳には・・・涙が溜まってた。

「ごめ・・ごめんっ・・・も、も・・・ごめっ!」

必至に真剣に吐き出される言葉。
そしてその言葉と一緒に落ちていく涙。
そっか・・・俺じゃー駄目、か・・・。
一回流れちまったもんは止められないのか、どんどん次から次へと溢れていってる。

・・・友達としても付き合わなきゃ、こんなに泣かさないで済んだんかな・・・?








「いいよ」






「・・・もも・・・?」


「も、いいからさ・・・もう、マックにも誘わねーし、なんか忘れても借りに行かねー・・・・・・傘も、貸さない。」
「・・・・っ・・・・」
「だから・・・もう迷惑かけねーから・・・」
「も、も・・・っ!」

あぁ、カミサマ・・・俺は、この子が本当に好きだったんだぜ・・・?

「も、付きまとわない・・・だから、そんなに泣かないでいーんだよ」

なのに、なんでこんなに泣かせちまったんだ・・・?























・・・キッツイんだな、声に出すのって。
こんな時に思ってっ事とか、今じゃなきゃ言えない事を漏らさねーように言葉にするのって、こんなにキツイ事
だったんだ・・・?

あれからちゃんとどう別れたのか、どうやって家に帰ったのか全然憶えていない。
とにかく、心臓が鷲掴みにされたみてーに痛んで、どう息していいかわからなかった。
部屋のベットに座った時、泣きたくなったけど・・・泣きたくなかった。勝手に落ちようとする涙をなけなしの理性と男のプライド総動員して必至になって食い止めた。
マックに誘わなければ、仲良くしてられたのか・・・?
それとも、彼女の言い出した事を遮ってでも縋り付けば良かったのか?
どっちにしろ、答えはきっと一緒だった。
遅いか早いかの違いなだけで、きっと・・・。
立ち上がって、ベッドサイドに置いてあったぬいぐるみに手を伸ばす。
ちゃんにあげようと思ってたぬいぐるみ・・・。
そのぬいぐるみを手にした途端、悔しさが・・・自分に対しての悔しさが込み上げてきた。



ゴンッ



ゴミ箱に捨てた。
なんかのドラマで言ってたな、<これと一緒に好きな気持ちも捨てられたらいいのに>って。
キザな台詞って思ってたけど、まさに今はそんな気分だよ。






本当に君が・・・今でも、好きなんだ。
でも・・・もう俺なんかの事で泣かせたくなかったんだ。



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20100401:ちょっと改訂